Hej Hej!自動車ライターのRioです!
今回はルノー・ジャポン様のご協力を得て、広報車のカングー(クレアティフ・ディーゼル)に試乗させて頂きました。あらゆる要素をじっくりとテストしてきましたので、そのレビューをお届けしたいと思います!
乗用車的に進化したカングー、実は原点回帰をしていた
日本市場では、2023年2月に3代目に切り替わり、大きく変化した『カングー』。その変化には賛否両論寄せられていましたが、ある意味この変化は原点回帰だったのかもしれません。
今回の大きなトピックとして、乗用車的な進化を果たしたことが挙げられます。プラットフォームも『メガーヌ』などのCセグメントや『エクストレイル』や『アウトランダー』などのDセグメントに採用されるCMF-C/Dプラットフォームが採用され、ボディも大型化されました。また、内外装においても大きく質感の向上が図られ、価格も384万円~419万円となるなど、同サイズの日本のミニバンを上回る価格設定となっており、『カングー』=商用車というイメージとは程遠い印象を受けます。
これらの乗用車ライクな進化は、『カングー』の道具感を好んだユーザーからはあまり受け入れられませんでしたが、『カングー』の歴史を遡ると、実は先祖返りを果たしていたことが分かります。カングーのご先祖様を辿ると『4F(キャトル・フルゴネット)』や『エクスプレス』といったモデルに繋がります。これらのモデルは、一般的な乗用車をベースに大きな荷箱を繋ぎ合わせたフルゴネットタイプの商用車となっています。つまり、『カングー』のご先祖様は元々は乗用車ライクな商用車だったのです。『メガーヌ』と共通のプラットフォームを採用し、より乗用車的な質感を手に入れた『カングー』。3代目となる現行モデルは、ある意味原点回帰を果たした『カングー』だったのです。
本社もビックリ!?超こだわり過ぎな日本仕様
まずはエクステリアから紹介しようと思いますが、ルノー・ジャポンのこだわりを理解するには、先にグレード展開を知っておく必要があります。まずグレードとしては下位グレードと上位グレードの大きく2つに分けられます。
下位グレードには必要な装備だけを残してシンプルな構成とした受注生産モデルの「ゼン」があります。「ゼン」の特徴としては下位グレードにも関わらず、しっかりと運転支援機能は搭載されていること。アクティブエマージェンシーブレーキやエマージェンシーレーンキープアシスト、ブラインドスポットインターベンションなど、先進のADASが全グレードに標準装備されています。さらに後ほど紹介する上位グレードにはアダプティブクルーズコントロールとレーンセンタリングアシストを組み合わせたハイウェイ&トラフィックジャムアシストも装備され、同じアライアンス内の日産のプロパイロットと同様に、ステアリングのスポーク上のスイッチで簡単に起動させることができ、ロングドライブの疲労を軽減し、より快適なドライブを提供してくれます。
上位グレードは価格を同じくして、雰囲気の異なる「インテンス」と「クレアティフ」と呼ばれる2つのグレードが用意されています。「インテンス」は、3代目『カングー』のコンセプトを体現した上質なイメージに仕立てられています。ボディ同色のバンパーやフルカバーのホイールキャップによって上品さを演出しており、乗用ミニバンとしての風格を手に入れています。また、ボディカラーも4色(ブラウン テラコッタ M/ブルー ソーダライト M/グリ ハイランド M/ブラン ミネラル)が用意され、「クレアティフ」よりも選択肢が多いことも特徴のひとつです。
「クレアティフ」は、今までのカングーのイメージを色濃く残した日本専用のグレードとなっています。具体的に、どこが日本専用なのかと言うと、まず本国仕様では商用モデルにしか装備されていない樹脂パーツの採用です。バンパーに始まり、ミラーやボディサイドモール、スライドドアレールカバー、凹凸形状のリアゲートアンダーガードなど、多くの場所に樹脂パーツがアクセント的に奢られています。またハーフキャップのホイールカバーも相まって、道具感溢れるプロ仕様を意識したエクステリアとなっています。
ボディカラーは「ジョン アグリュム」と「ブラン ミネラル」の2色のみとなっていますが、特別仕様車などで他のボディカラーとの組み合わせが採用されることも多くなっています。カタログカラーの2色の中でもオススメはもちろん「ジョン アグリュム」。試乗車にもチョイスされ、『カングー』といえばこの色!という印象が強いですが、実は本国では既に廃盤となっているらしく、日本仕様のために生産されているボディカラーなのだそう。ちなみに「ジョン アグリュム」ではドアハンドルはブラック、ブラン ミネラルではドアハンドルはボディ同色といった細かい仕立ての違いもあります。
エクステリアはシャープな印象に
グレード展開について少しは理解して頂けたかなと思いますので、ここからは(ようやく)エクステリアについて紹介していきたいと思います(笑)。今回お借りした「クレアティフ」を用いて見ていくと、クロームパーツがアクセントで入ったグリルは上品な印象に。ヘッドライトは、先代モデルの丸目に近い可愛らしい顔つきから大きく変わり、先進的でシャープな印象のキリッとした目付きに変化し、可愛らしいよりはカッコいいに寄ったフロントフェイスになりました。
バンパーのコーナー部分にはフォグライトが装備されますが、そのすぐ横にはフロントタイヤにエアカーテンを設けるべく、エアダクトが採用されています。『カングー』でありながら空力にも注力しているのは、本国には電動モデルも設定があるから、とも言えそうです。
サイドに回ると、ボクシーなプロポーションながら、角を丸めたデザインは柔和な印象を与えます。また、3代目ではAピラーとCピラーが寝てきたことも特徴的です。「クレアティフ」においては、ブラックのアクセントによって引き締まった印象もありつつ、樹脂の素材感がアウトドアに似合いそうな雰囲気を醸し出しています。また、オプションのマルチルーフレールは実用性も備えつつ、よりアクティブな印象を与えます。
リアに回ると、日本仕様ならではの大きな特徴が見られます。それが観音開きのダブルバックドアです。日本市場の強い要望を受け、本国仕様では商用モデルのみに設定されるダブルバックドアを日本仕様では乗用モデルに組み合わせています。ちなみに本国仕様の乗用モデルは一般的な上ヒンジの大きく開くバックドアを採用しています。日本仕様でお馴染みのダブルバックドアは、先代同様90°に開き、ロック解除で180°近くまで開くという仕様となっています。
ただ、ロック解除の機構は先代モデルの方が作り込みが良く、先代モデルではドア側に操作しやすいレバーが付いていたのに対し、現行モデルではヒンジ部分を直接操作してロックを解除する仕様となっています。その点では、先代モデルの方が作り込みは丁寧で親切だった気がしてしまいます。
インテリアは質感を高めつつ現代的に
インテリアは良くなった点、悪くなった点、一長一短が色濃く現れています。運転席周辺は、先進的なメーターやセンターディスプレイ、ヘアライン加工のダッシュボード、表示内蔵型のダイヤル&スイッチ式のエアコン操作系など、質感が大幅に向上しています。
メーターフード部分の収納にはUSBポートが2個用意されるほか、オプションのスマートフォンホルダーは純正ともあって使い勝手は抜群となっています。また、前席上部に設けられたオーバーヘッドコンソールは商用的な装備ではありますが、パッとモノを出し入れできるので普段使いでも便利な収納となっています。
後席は綺麗に3等分されたシートが特徴的です。これであれば紅白初出場を果たした「Mrs.GREEN APPLE」の3人も、ケンカせずに仲良く座れます(笑)。中央のシートでもサイドサポートがしっかりあるのは嬉しい作りです。さらに、ミニバンと言えばの前席背面の格納式テーブルも装備されています。面積は大きめなものの、ドリンクホルダーの形状など、使い勝手は日本車が1歩リードしてるかな?という仕上がり。後席にもエアコン吹き出し口が設置されたのも嬉しいポイントです。
先代モデルとの大きな違いとして、後席上部のオーバーヘッドコンソールがなくなってしまったことが挙げられます。日本のミニバンには見られない装備だったので、重宝していた方も多いはず、、。ライバルであるシトロエンの「ベルランゴ」やプジョーの「リフター」などには、独自のルーフ収納が用意されているだけあって、この変更は少し残念。ただ、それと引き換えに視界が開けることで開放感が増しています。座ったときの膝前や頭上のクリアランス、そして大きめサイズのサイドウィンドウと相まって、後席は現行モデルの方が明るく広く感じられる空間となっています。
『カングー』で気になる要素のひとつが荷室でしょう。ダブルバックドアを開くと、大きくスクエアな荷室が現れます。ラゲッジスペースは5名乗車時で775L、リアシートを倒して2名乗車とする場合は2,800Lの容量を確保しています。
後席の格納はダブルダイブダウン式なので、とにかく低く倒せることで、荷室から段差なく続くフラットなフロアが実現されています。さすが元々が商用モデルというだけあって、全体が凹凸なく真四角な形状となっているので、かなり扱いやすい荷室となっています。
荷物を外部から見られることを防ぐトノカバーボードは、半分で折り畳めるほか、背の高い荷物を積むときは荷室と後席の間に収納できるようになっています。一方で、先代モデルでは剛性たっぷりのトノカバーボードを上段や中段にセットすることで棚のように使うことができたのですが、現行モデルでそれができなくなってしまったのが少し残念。これだけ大きな容量の荷室では、縦の使い方を工夫することで使い勝手がぐっと向上するの、今後の改良にも期待したいところです。
バンなのにしなやかな足回り
ここまで長々と概要と内外装について紹介してきましたが、やっと注目の“走り”についてです。まず乗り込む際に気が付くのが、ドアの使い勝手の良さです。前席のドアは90°近く開くことで、広い場所での乗り降りのしやすさに貢献しています。
また、後席のスライドドアも操作が軽くなり、扱いやすいなっています。ただ、スライドドアは電動ではなく手動なので、内側から座った体制で開けるときの操作は重たく感じられます。
走り出してすぐに感じられるのが、しっとり感です。それは乗り心地に限らず、パワートレインにも言うことができます。試乗車に搭載されているディーゼルエンジンは、とにかく静かで振動も少なく、車内からはディーゼルエンジンであることが分からないほどでした。ディーゼルエンジンならではの太いトルクによって、停止状態からスルスルと走りだし、7速EDCは滑らかに変速していきます。
少しペースを上げると、さらに色々なことが分かります。例えばエンジンは、ディーゼルでありながら軽々と回り、レッドゾーンである5000回転までガソリンエンジンのようにスムーズに吹け上がっていきます。また、シフトを右側に倒してマニュアルモードにすることで、任意のギアを選択することができます。しかも奥がシフトダウン、手前がシフトアップのレーシングタイプ。これがまた、シフト操作に対して反応がリニアでパドルシフトが欲しくなってしまうほど。しかも、かなりわがままを受け入れてくれる仕様になっていて、低回転から高回転まで自由自在に操ることができます。
足回りのセッティングも秀逸で、とにかく4輪がしっかりと動いてくれます。商用モデルと乗用モデルで大きく作り分けられているのだと思いますが、荷物を多く積むクルマにありがちなリアの突っ張り感が、この『カングー』には一切ないのです。扁平率の高いファットなタイヤとしなやかなサスペンションやダンパーによって、細かいショックは全て吸収してくれます。
また、フランス車らしい粘っこさも備えていて、これによって低速ではふんわりと、高速ではグッと踏ん張りの利くセッティングに仕立てられています。例えるならマシュマロの触感(食感)みたいな、、?細かい振動はフワッと打ち消して、大きいショックはしっかりとダンパーのストロークを活かして路面のアンジュレーションやボディのロールを吸収してくれるようなイメージです。また、それが空荷状態で4輪がバランス良く機能してくれるため、乗用車の中でもかなり快適性の高いモデルに仕上がっているのでした。
不満点を挙げるとすれば、エアコンとフロア振動についてでしょうか。エアコンに関しては、オフなのになぜか吹き出し口から生ぬるい風が出続けることがたびたびあるのです。個体の問題なのか、そもそもの作りの問題なのかは分かりませんが、オフにしたら風は止まってくれないと、微妙に暖かい風を感じるのは快適とは言えません。
フロア振動に関しては、おそらく原因はボディ剛性の高さだと考えられます。ボディ上部に対して、ボディ下部の方がガッチリとしているので、路面などの微振動がフロアを伝って乗員に伝わってきます。逆を言えば、ボディ下部の剛性が高いということなので、キビキビとした走りを楽しめるとも言うことができるでしょう。振動を減らしつつ、ボディ剛性を高めるには、車体全体の剛性バランスを均一にするしかないでしょう。ただ、『カングー』のような箱型のボディでは、ルーフやピラーなどの剛性を高めるのはなかなか難しいとも言えます。
仕事も趣味も。何でもこなせる”バン”能選手
そろそろまとめに入ろうと思います。このクルマの評価は、どういう先入観を持って触れるかで大きく変わると思います。筆者の場合は、『カングー』には根底には商用モデルの存在があって、乗用モデルとはいえ、商用バンらしさは色濃く残っていると考えていました。そう身構えて乗り込むと、一般的な乗用車をも超える質感が動的にも静的にも備わっていたことが印象的でした。運転席周りもデジタル化が進み、『ルーテシア』などと共通のパーツを用いることで先進的でモダンなインテリアになっていたり、走りに関してもしっとりとしたフランス車らしいしなやかさと粘っこさを備えていて、元気良く走らせても楽しい1台となっていました。まさかバンに対してしっとりという言葉を使いたくなるとは、、。いい意味で裏切られました(笑)
ボディサイズも価格も大きく成長した3代目『カングー』。表情がかわいい系ではなくカッコいい系になってしまったことは、動物的な雰囲気よりも工業製品感が増してしまった気がして残念でしたが、明らかにクルマとしての完成度は飛躍的に向上していることが感じ取れます。本国での本来の役割である商用ユースから、日本で独自に発展した趣味を楽しむ空間としてのプライベートユースまで。柔軟な走りの『カングー』は、ユーザーのライフスタイルに対しても柔軟に対応してくれる“バン”能なバンとなっていました。