こんにちは。すばらPです。
今回もアルファGTVに引き続き愛車の「ボルボ・850エステート・GLT」を紹介します。
とはいいつつも、現在は別のクルマに乗り換えたため過去の愛車となりますが、この車の素晴らしさをご紹介させてください。何に乗り換えたのか?と気になる方、こちらも改めて記事にするので、お見逃しなく…
それでは行きましょう。
ボルボとは
ボルボというブランドを知らない人はこのサイトの読者にはそうそういないと思いますが、少し復習させてください。
まず、Volvoとはラテン語で”私は回る”という意味を持ちます。なぜそのような名前になったのか。
これは元々Volvoというワードがスウェーデンの大手ベアリングメーカー”SKF”の商標であったこと、そしてSKFがボルボの母体であることが理由です。
よく日本車メーカーでも「トヨタはもともと自動織機メーカーだった」とか「スバルは元々飛行機メーカーだった」なんていう逸話がありますが、ボルボは元々《ベアリングメーカーだった》ということです。
ボルボといえばもはや神話とも言える高い安全性や、1オーナーで480万km以上走行したとしてギネスブックに登録されたほどの耐久性が有名ですが、それらを裏付けるような安全に関する実績があります。
有名どころでは
・世界初の3点式シートベルトを開発し、その特許を公開した
・30mの高さから落としてもキャビンは変形せず生存空間が常に確保できる様子をテレビCMにして放送した」
・走行中に突然ヘラジカが飛び出してきたときの回避行動を取ったときの挙動を評価する”ムーステスト”をいち早く標準化した
・モノコックにボロン鋼と呼ばれる高張力鋼材をふんだんに使用してコストより安全性を優先している
などなど。
ボルボの代名詞とも言える存在が、名車として誉れ高い『240』ですが、そんな240の後継モデルとして5年間の開発期間の末に1992年に発売されたのが今回紹介する850です。
850は”今までの「ボルボ」とは違う”創業以来の大刷新モデル
メカニズムについて
850はそれまでのボルボとは何もかも刷新したモデルでした。一番大きな変化点は駆動方式です。
ボルボは乗用車の生産開始以来、フラッグシップモデルに一貫してFR、すなわち後輪駆動を採用し続けました。850では一転して前輪駆動に切り替えます。
従来のボルボにあった大柄な車体ながらも驚異的に小さく回れる最小回転半径(5m未満)を捨てたことは賛否両論ありますが、FR時代より広く取れた居住スペースや1998年にXC70として登場する4WDモデルの礎になったことなどを考えれば、世界的なFF需要を取り入れたものといえます。
それに伴い、エンジンはそれまでの縦置きに別れを告げ、横置きに改められました。
このエンジン搭載位置変更についても、エンジンの上側のマウントをあえて華奢な作りにすることで正面衝突時に上側のエンジンマウントが破断し、キャビンの下側にエンジンを滑り込ませることでキャビンにエンジンを突入させないという安全性に配慮した作りとなっています。
エンジンは当時のハイエンドモデル”960″に搭載された直列6気筒エンジンをベースに、1気筒削減した直列5気筒エンジンに統一されました。
世界的、歴史的に見ても直列5気筒エンジンは珍しく、世界の主流にはなっていないのが現状ですが、このエンジンは改良が重ねられて30年近く現役を担い続けました。
足回りにも、FR時代とは一線を画す技術的イノベーションがありました。
フロントこそ古典的なマクファーソンストラット式ですが、リアは従来の車軸式リジットアクスルから独自のマルチリンク独立懸架「デルタリンク」が採用されました。
デルタリンクとは「左右で2本あるロアアームがフロアと互いのアームの根本で固定される」方式です。
このレイアウトの最大のメリットは、荷室体積の確保でした。リアサスシステムを低い位置で完結させることができるため、独立懸架のメリットと元来のボルボ・ワゴンのメリットである広くスクエアな荷室容積を可能な限り両立したものです。
このデルタリンクという機構は、850とその後継であるV70の初期型で終わってしまった構造で、機構としてはメインストリームにならなかったのですが、ボルボ850を象徴する機構と言えます。
安全性と機能性のさらなる追求
その他、ユーリティティとセーフティーも進化します。
特筆すべきシステムとして、850は『SIPS』と呼ばれる側面衝突吸収システムを開発し、1994年には「世界初のサイドエアバッグシステム」を標準設定しています。
このSIPSは今日まで販売されてきたすべてのボルボに改良を重ねたうえで導入されています。
また、850は世界で初めての「チャイルドシート内蔵型リアシート」を搭載しました。それまでもボルボはクルマに同乗する乳幼児の安全を考え、様々なチャイルドシートの開発に着手しています。
例えば「衝撃を緩和させるために後ろ向きに取り付けるチャイルドシート」はボルボが発明していますし、「学童児向けのブースタークッション(座高を上げてシートベルトを子供の体にも合うようにしたシート)」を世界で初めて導入したメーカーでもあります。
ユーティリティ面では、240まではリアシートが3席一括でしか収納できなかったものが2:1で分割化され、リアシートを畳みつつも乗員を乗せることが可能になりました。
当然フルフラット化も可能で、身長が172cm程度の筆者でも、対角線上に寝れば完全に足を伸ばして寝られます。
デザインは240以来の古典的な”走るレンガ”のイメージを踏襲しつつも、バンパーのウレタン部やサッシュはスムージング化され、1990年代にふさわしい見た目に改められました。
特にエステートの細長のテールランプは、トランク開放時でもすべてのテールランプが見えるという後続車への視認性も高い機能的かつスタイリッシュなデザインになっています。
その成果として、イタリアの“最も美しいエステート“や日本の“グッドデザイン賞”に選出されるなどの実績を持っています。
ワゴンボディでのモータースポーツ。ワゴンブームの一端はここにも
そしてボルボ850の意欲的な取り組みの一つに、モータースポーツがあります。
欧州ツーリングカー選手権に240で参戦し、2年連続でチャンピオンを獲得するなどの成績を収めていました。そしてボルボは、850の“ワゴンボディ”でイギリスのBTCCに挑戦します。
アウディ・A4やアルファロメオ・155、ホンダ・アコードなどの4ドアセダンが大多数の中で唯一のワゴンボディだった850は善戦し、今でも伝説として語り継がれる90年代の欧州ツーリングカーレース史には欠かせない存在になっています。
ちなみにこのワゴンボディ、決してネタや冗談で決められたものでは有りません。理由は、空気抵抗です。理論的な空気抵抗ではワゴンボディの方が低く、トップスピードはワゴンのほうが速かったとさえ云われています。
この実績を活かし、従来の鈍重なボルボのイメージからスポーティーカーとしての能力の高さをアピールするように、市販車でもレースの技術をフィードバックしたスポーツモデル、”T-5R”や”850R”が限定販売されました。
このスポーツモデルは日本国内でも高い人気を誇り、日本ではスバル・レガシィツーリングワゴンや日産・ステージアなどと共にワゴンブームを牽引しました。
~すばらP’s850~
筆者の所有する850はエステートGLTと呼ばれるモデルで、GLTとは日本国内では2番目のグレードという位置づけになるようです。
筆者がこの車を購入したのは2023年の3月頃。
購入の最大の理由は”積載力が高くてかっこよくてそれなりに安めの車が欲しい”と考えたからです。
積載性に乏しいアルファ・GTVに加えて、80万円程度でATのワゴンを買いたいと考え、様々な物件を物色した結果、このボルボ・850エステートにたどり着きました。
~ボルボ・850エステートの魅力~
筆者は特にボルボ・850について幼少期から思い入れがあったわけではなく、ボルボ850という車の存在も10代後半くらいになってから認知しています。ただ、そんな筆者でもボルボという車、そしてその見た目の異質さはもっと前から認識していたように思います。当時はもう自動車デザインの現場に3D-CADやCGが取り入れられて久しく、流線型の車がほとんどでしたが、その中でもボルボのスクエアな見た目は目を引きました。
結局購入したのは850という若干現代風のデザインを取り入れた車になりましたが、それでも基本を直線で構成されたエステートデザインは端正で美しいと感じます。
使い勝手について
リアビューも象徴的なテールレンズを除けばどれもシンプルな造形です。そして、リアハッチは限りなく長方形に近い間口形状で、開口部面積と屋内の断面積がほぼイコールで、間口とフロアに段差がありません。
これが重いものなどを出し入れする際などに非常に便利で個人的にはかなりグッドポイントでした。
積載性はご覧の通りで、車のタイヤを2台分積んでも余りあるスペースです。おそらく、後方視界さえ気にしなければもう一台分は行けるでしょう。
筆者の個体は年式、距離相応のヘタリがありますが、内装はレザーシートで、パワーシートも付いてきます。
調整は前後上下、座面の角度、背もたれの角度が変えられ、3つのメモリー付きです。
それに加えて、手動にはなりますがランバーサポートの幅調整もできます。
座り心地はかなり良く、標準的な日本人の体型であれば小さすぎて窮屈さを感じるといったことは無いと思います。一方でレザーシートのデメリット「夏は暑く、冬は寒い」を痛感しています。
真っ黒のレザーである850のシートは真夏日だと触れないくらい暑くなりますし、冬は暖房をつけても中々温まりません。
(シートヒーター自体は付いているのですが、筆者の個体は故障しているのか、いつまで経っても暖かくなりません)
インパネ、ステアリング周りは上級グレードらしく、ウッドパネル、ウッドハンドルが奢られています。ウッドハンドルは実物の木を使っているため、買ったときからささくれがあります。手を切るほどのものではないので放置しています。
ステアリングフィールは案外ダイレクトに路面状況を伝え、それなりに重いです。あまりクイックではない印象です。
計器類は見やすく、警告灯類は右下に集約されます。メーター下部の液晶は燃費や外気温度などが切り替えられますが、あまり当てになりませんでした(個体差かもしれません)。
スイッチ類は240からの伝統を守り、”分厚い手袋をした状態でも操作できる”という思想に従って設計されています。そのため、どれも大きく、シーソー式のスイッチを基本としています。ハザードスイッチまでもがシーソー式です。
この車にはクルーズコントロールシステムが搭載されているのですが、現代の基準から見ると制御がやや旧式のためやや使いづらく、普段はあまり使っていません。
「走り」について
ボルボ850特有の仕様として、ギアセレクターに”セカンド”がありません。これはボルボの思想でセカンドを多用する乗り方を推奨していないという説がありますが、山道を走る際は結構困ります。
そして、パワーウィンドウスイッチはセンターコンソールに集約されています。以前所有していたマツダ・ロードスターと同じ位置なのであまり違和感はありませんが、ドア側に付いている方が自然だと感じる方は多いのではないでしょうか?
シフトゲート横にはスノーモード・スポーツモードを切り替えるスイッチが付いています。一度だけスノーモードを入れたことがありますが、あからさまに出足が遅くなりましたので普段はスポーツモードに入れています。
ペダル位置は中々良いです。FF化したことでフロアを広く確保できているように見えます。
走り出せば、思いのほか出足は良いです。軽快ではありませんが、必要十分です。
特に市街地レベルの走行速度域では意外なほどに中間加速性能が高く、アクセルを踏み込んだときのピックアップが良いです。
筆者の850はNAエンジンなので、ターボ搭載車であればもっと俊敏に加速できるのだろうなと思います。
直列5気筒という今となっては珍しいエンジン形式のフィーリングは、4気筒、6気筒を同時所有していた筆者から見ても若干粗めの粒感が独特です。6気筒ほどの線の細さは無く、”6気筒を1気筒削った”というよりは”4気筒に1気筒加えた”という表現がふさわしいと感じます。
筆者の850はオーソドックスなアイシン製の4速ATで(個体差かもしれませんが)変速ショックはそれなりにあります。とはいえ、30年以上前という年式を考えれば特段欠点とは言えません。むしろ、先述のエンジンとの相性が良さそうです。
FFレイアウト化による最小回転半径の肥大化は240などと比較すれば数字こそ劣るものの、筆者の生活圏内ではとくに困ることはないです。
ボルボ、ましてやNAのコンフォートモデルで「コーナリングを攻める」という評価項目はあまり需要が無いかもしれませんが、大きくホールド性に優れたシートのお陰で高速道路のジャンクションやインターチェンジで安心して走れる印象です。
~筆者のボルボ850エステート ここがイマイチ~
筆者の850は購入当時よりエアコン故障やABSランプの点灯、ドアのインナーハンドル故障など、いわゆる「荒れた個体」であることが理由かもしれませんが、やや気になるポイントを記載しておきます。
エンジンのパワーはやや苦しい場面があります。例えば中央道特有の山岳地帯ではパワー不足を感じます。80km/hを維持しようとすると3速にキックダウンするレベルなので、余裕のあるクルージングとはいきません。筆者の850は2.5LのNAエンジンですが、パワーが欲しいと思われる方は迷わずターボモデルを選んでください。
そのわりに高速燃費があまり良くありません。いいとこ7km/Lくらいでしょうか。
(繰り返しますが、パワーや燃費があまり芳しくないのは個体の問題かもしれません)
もう一点、短いモデルライフが災いしてか部品供給が過去のFR各種モデルに比較して脆弱な印象があります。
定番の消耗部品は純正ないしOEMで何らかの新品が手に入りますし、価格もこなれていますが、エアコン関係やABSのセンサー関係など、”意外と壊れる”ところほど部品が枯渇しています。
~850を買いたい人に伝えたいこと~
昨今はクラシックボルボがプレミア的高騰を続けており、これにつられて一部の850も相場が上がってきているように見えます。しかしながらFRボルボに比べれば、2024年現在はまだ二桁万円台の手頃な個体がボリュームゾーンです。
故に、ボルボがボルボらしい見た目をしていた時代のボルボが欲しい方にとって、850は良心的な相場で買えるモデルと言えます。
ただし、その良心的な相場はすなわち、見極めて良質な個体を選ぶ必要があるモデルであるとも言えます。
850のような完全にクラシックカーになり切っていないモデルには、多少の不具合や故障は目を瞑って乗られてきたような荒れた個体がまだ残っています。
一方で、幸いにしてボルボ・850は全国に得意としているプロショップが存在していたり、ボルボ正規ディーラーでも店舗によっては整備・修理を受け入れてくれると聞きます。そういったプロの目で判断してもらってより良い850を探し、お金をかけて永く維持していくという方法もアリです。
また、DIYをしながらコツコツ自分でメンテナンスをするのもいいですね。
いずれにせよ、ボルボ・850をはじめとする「ネオ・クラシックカー」を維持することは”良いモノを修理しながら永く使い続ける”という高級革製品のようなものだと考えています。
ネオ・クラシックカー…その中でもボルボ・850を選ぼうと思う読者にとって、この記事が何かの役に立てれば幸いです。