「Piccoro Spartanoで日常を生き、夢を走る」マリ監督のエコカーカップ参戦記

「CarBoon」のコア読者層はどういった方々でしょうか。クルマ好き、これは勿論共通項かと思います。サーキットにレースを見に行ったことはおありでしょうか。そして走ったりサポートしたことは? 一口にクルマ好きと言っても趣味嗜好はさまざまですよね。

それでもクルマ好きが集まると、決まって話題になるのは天気の話…ではなく、世代と、どういった車を乗り継いできたか、青春時代に憧れた車はなんだったか?といったことではないでしょうか。

パワーでゴリ押すアメ車がいい、アメ車でもプレスリーが乗っていたようなクラシックスタイルがいい、走るガンダム(ランエボ)がいい、六連星のついてるクルマしか乗ってない、昔のシビックType-Rにもう一回乗りたい、欧州Cセグメントから離れられない、いやバイエルン州旗のバッジだろ、何言ってんだ買えなくてもフェラーリ様だ、ディーラーに通ってポルシェ買った、空冷のビートルと何度も道で止まったぞ……十人十色でいろいろな思い出が引きも切らずに出てくることでしょう。クルマ好きとは得てしてそういう生き物です。

そんな中、沼地感が特に激しいと個人的に感じているのが「非スーパースポーツのイタリア車」です。すなわち、ランチア、フィアット、そしてアルファロメオ。

この沼地に足を踏み入れて、無事に脱出できた人を筆者はあまり知りません。かくいう自分が脱出できないまま生きています。

成人と同時にアルファロメオ145に乗って18年、145の廃車と入れ替わりでアバルト595、さらには大学時代に死ぬほど憧れたアルファロメオ916スパイダーを「おばあちゃんになるまで乗るんだ!」と啖呵を切って買い足して1年半、現在に至ります。途中2年ほど家人所有のフィアット・バルケッタも並行して運転しました。おまけに全てミッション車です。ご近所から「あそこの奥さんは頭がおかしい」と思われているでしょうが、この沼地から出ることは諦めております。

こんにちは。CarBoonの代表セイタロー氏が2023年8月に参戦した「エコカーカップ」で「ステラ500」のチーム監督とドライバーを務めた縁で寄稿することになりました。普段はアマチュアの耐久シリーズ戦に参加するプライベーターのアシスタントとストラテジストをしております。

サーキット走行はパレードラン程度なら度々ありますが、過去の実戦は僅か2回。東北の今は無き名コース仙台ハイランドと、関東のミニサーキットの老舗ナリタモーターランドのみ。普段はレースを支える立場であり、サーキットを走らないクルマ好きです。

突然のLINE「走ってくれってさ」

エコカーカップ参戦のきっかけは、筆者のアバルト595を試乗したSTELLA代表からの出走依頼が届いたことでした。それが気がついたら「監督もやってあげて」ということになり、あれよあれよと日が近づき、前々日に出てきたメンバー表とエコカーカップ参戦歴のある人の意見をもとにストラテジーを作るというバタバタぶりでした。

ただ、エコカーカップは1秒でも速く走り、ひとつでも順位を上げるレースではありません。低燃費でひたすら指定ラップタイムのピタリ賞を狙い続けるのみであり、戦う相手は時間と消費ガソリンです。アクシデントさえなければ事前に計算した通り走ればいいだけ。そのため、当日は椅子にふんぞり返っているのみでした(笑)。

エコカーカップの仕組みはセイタロー氏による既報のとおり。そのため本稿では趣向を変えて、

  • ゴリゴリのエコカーでもなければサーキット仕様でもないイタリア車でも気軽に楽しく参加できるのか?
  • サーキット走行未経験者でも参加できるのか?

という視点でエコカーカップを見ていきます。

イタ車好きにとって「エコカーカップ」は無理ゲーか?

エコカー主体のグリッド整列の様は普段目にするレースとは異なり、ピットロードの雰囲気も鷹揚

エコカーカップ参戦車両には、厳然たるルールがあります。それは、低燃費技術が採用されている車両であることです。

そしてルールブックには黄色いハイライト付きでこう書かれています。

メーカー純正のメーターパネルに「平均燃費と、その走行距離」が表示できない車両は参加できません。

いきなり終わった……。

車歴の長いイタ車好きは少なからず、20世紀のクルマに文字通り〝しがみついて〟乗っています。こうした車両に「走行距離に基づく平均燃費計」などというイマドキなものは搭載されていません。我々はグリッド整列さえ許されないのです。

しかし諦めてはいけません。エコカーカップには、指定ラップタイム4分45秒、速度に換算すると平均60km/h程度で走る1時間耐久「エンジョイ60」という枠があります。この規定は「本格的なサーキット走行をするカスタム装備は必須ではない」ことを意味します。アルファロメオがハイブランド路線に舵を切り、目下、日本の一般市民が新車で買えるイタリア車はフィアット/アバルトほぼ一択と言って差し支えない状況ですが、高年式車でもアルファロメオ147以降であればお手頃なイタリア車の街乗り仕様のまま、比較的安全に参戦できるということでもあります。

ここで先日の「エンジョイ60」参戦車両58台の内訳を振り返ってみましょう。

「サーキット走行なのにそんなクルマで出てんの?!」と驚く車両ばかりかと思います。このラインナップを見ると「アバルトどころかパンダでも出られるんじゃないの?」という気持ちになります。たぶん出られます、問題なく。

トヨタ…30台

・プリウス(8)

・アクア(8)

・ヤリス(7)

・86

・カローラツーリング

・レクサス

・クラウン(計7)

日産…4台

・NOTE(4)

ホンダ…5台

・フィット

・S660

・CR-Z

・インサイト(2)

マツダ…8台

・アクセラ

・キャロル

・デミオ/MAZDA2(4)

・ロードスター(2)

スズキ…2台

・ジムニー

・スイフトスポーツ

ダイハツ…1台

・コペン

ルノー…4台

・トゥインゴ

・ルーテシア

・メガーヌ

・アルカナ

フォルクスワーゲン…1台

・ゴルフ R ヴァリアント

ボルボ…1台

・S60

フィアット・アバルト…2台

・アバルト500

・アバルト595

ヒトとクルマ、最低限必要な装備は?

JAF戦や本格的なサーキット走行には耐火スーツ他一式が必要ですが、エコカーカップは「ヘルメット、滑りにくいグローブ、長袖、長ズボン、運動靴」で参戦可能です。ヘルメットやグローブはカー用品店で普通に売っている物でOK。人間の準備はあっさりしたものです。

(万一のことを考慮してアクセサリー類はすべて外しましょう。特に耳と首)

車両装備はどうしたらよいでしょうか? いくら吊るしで走れる低速レースとはいえサーキット走行ですから、一定のグリップは欲しいところ。エコタイヤではなくスポーツタイヤが無難です。なおSタイヤ・競技用タイヤ、(計測に支障が出る)純正以下のサイズのタイヤは使用が禁止されています。

ブレーキは心配ありません。富士スピードウェイレーシングコースの全開走行は、595でさえホームストレートで時速150km以上からのフルブレーキが必要で非常にシビアですが、エコカーカップは燃費最重視かつ指定ラップタイム厳守のレースですから飛ばすことがありません。むしろ飛ばしていたらその走行は失敗です。あっという間に消し炭になるようなパッドでなければ充分です。

シートとハーネスはどうでしょうか。シートがズルズルだと万一の際に踏ん張りが効かないため、フィアット500(非アバルト)やパンダといった車両の純正シートは分が悪いですが、アバルト500/595であればベースグレードでもスポーツシートが装着されていますから問題ありません。アルファロメオ各車のシートもおそらく大丈夫です。

(欲を言えばフルバケ&4点以上のハーネスが欲しいですが、それだと吊るしにならないので…)

肝心の燃費はどうだった?

チェッカーフラッグが振られた後、パドックでマシンの帰りを待つ

レース終了後、車両保管区域にて燃費計の確認が行われます。

「エンジョイ60」におけるステラ500の結果は…

18.6km/l

結構イケてる?!

筆者は「エンジョイ60」のストラテジーを組むにあたって1ラップ0.4l(15.2km/l)で試算していました。所謂〝エコカー〟ではないアバルトで、しかもエコカーカップ初心者を抱えての18.6km/lはかなり優秀ではないでしょうか。

これならミトやジュリエッタでもイイ線が狙えそうです。

【閑話】ステラ500の装備

出走前のステラ500。シートはフルバケだがハーネスは純正。外装のカスタムも控えめのマシンだ

「ステラ500」にはSTELLAのカスタムパーツ(開発中も含む)であるリアタワーバー、マフラー、ブレーキパッド、ローダウンスプリングが装着されていました。

STELLAの開発コンセプトは「街乗りを快適に気持ちよく。そしてたまのサーキット走行やワインディングロードでも安全に機能すること」だそうです。

当日のマシンコンディションについて、代表に簡単に振り返ってもらいました。

エコカーカップの2週間前に、モビリティリゾートもてぎで行われた「Star field idlers Games 夏の12時間耐久」に参戦しました。
その後の整備は各部点検と油脂類補充、ブレーキフルードのエア抜きのみです。
正直、それ以外の箇所でトラブルが発生するのではないかと不安でしたが、エコカーカップの合計4時間をノントラブルで走り切れてホッとしました。装着していたカスタムパーツには自信がありました。チームの皆さんにも好評で嬉しかったです!

筆者が〝街の595乗り〟として注目したのは居住性を殺さないリアタワーバーと、オーバーさは皆無のバネです。

リアが高めのオニギリ体型ゆえなのでしょうか、オリジナルの595は本当に微妙ながらヒョコヒョコするのです。

この点に関して筆者は2年ほど前、STELLA代表の師匠に改善策を訊いています。当時は「あれねー!やっぱり気になるんだ。でも(街乗り仕様では)どうしようもないのよ今のところ」と言われて涙を呑んだのですが、ステラ500は自車のような不安感がなく、全体的にバリッとしていました。旋回時のぐにゃぐにゃ感も解消しています。これらは、直進安定性を高めることを意識して開発したリアタワーバーと、ダウンコイル装着により前後バランスが落ち着いたことの恩恵と思われます。

<プチ余談>

筆者が595の微妙な不安定ぶりを痛感したのは、実家の母を連れて片道300km弱の山越え旅行に出た時です。年がいったにしても145時代より明らかに母が疲れており、実際に「古くなっても145のほうが楽だった」と言われました。グレード違いといえばそれまでですが、「これならスパイダーの足回りをリフレッシュしたほうがマシなのではないか」と思ったものです。リアタワーバーとダウンコイルで解消してくれれば家族にも優しい車になれます。

事前練習の必要性

エコカーカップのカテゴリは「エンジョイ60」の他、指定ラップタイム3分15秒、速度に換算すると平均90km/hの3時間耐久「チャレンジ180」があります。

「チャレンジ180」は走ってみるとわかりますが、サーキットのサの字も知らない人がある日突然「速度ゆっくりだから大丈夫だよー」と騙されて、一切の練習なしに走れるものではありません。いや、走れはするのですがおそらく怖い思いをします。

「平均90km/hなんて高速道路以下じゃん」と思いますよね?

違います。まず、サーキットには車線がありません。車線がない広い道幅にポーンと放り出されてみてください。どこを走ったらいいのか咄嗟にわからなくなります。おまけに多数の車両が同時に走行しています。基本ラインはどこか、そして周囲に他車がいるときは何を優先したらいいか、そういったことを走行中に判断するには気持ちの余裕が必要です。

そしてサーキットには急なアップダウンや厳しいコーナーが複数存在します。それゆえセクターごとの速度差が大きく、エコカーカップと言えど、シケインではしっかり減速&シフトダウンしてコーナーを曲がり、素早く速度を回復して燃費のために高いギアで走らなければならないのです。

公道なら初見でも走れますが、サーキットにはバンクがついていますし、シケインやU字、V字カーブは走ってみると想像以上の難易度で、「こんなキツイんですか?!」と驚かされます。

いきなりサーキットを走る恐ろしさは、仙台ハイランドで筆者が負ったトラウマでもあります。そのためアサインされて以降は「グランツーリスモ」でひたすら富士を走りました。そこまでしても最初の1周はプチパニックでしたから、予備知識なしでの走行は何をか言わんやです。

実際問題、エコカーカップでクラッシュはまずあり得ないのですが、パニックになって誰かにぶつけたり、走り方がわからず指定タイムから悲しいくらい離れてはいけませんからね。

エコカーカップは”街乗り仕様のまま人と争わず楽しめるレース”

21世紀になって四半世紀近くが経ち、昔ながらの車好き、そしてサンデーレーサーで居続けることは難しい時代になりました。また昨今のエネルギー問題等からガソリン代やパーツ代も上がる一方で、殊に耐久レースとなると参戦費は頭の痛い問題です。

しかしエコカーカップは最低限の準備を整えればオリジナル仕様のまま参戦可能で、使用するガソリンも非常に少なく、低コストで楽しめます。なによりも万一の事態が起こりにくいため、サーキット初心者を誘いやすいレースです。

一般的なレースとは異なる指標で順位を狙う特殊性にハマって参戦を続ける人が多いというのは頷けますし、エコカーカップの経験をもとに「もっと速く走ってみたい!」と走行会に挑むのも良いでしょう。もちろん、それきりになったとしても「サーキット走ったことあるよ!」と言えます(笑)。

エコカーカップは「富士スピードウェイ」というF1も開催可能なフルコースを楽しく安全に体験し、サーキットという非日常を味わうのに格好のイベントであると認識できた1日でした。

(企画・執筆)ステラ500監督 マリ

(編集)セイタロー

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